11月21日 ソフィア
~この日撮った写真(少ない。。)~
頭部に激痛が走って、目が覚めた。
どうやら僕はあの後バスの座席を2つ陣取って眠ってしまっていたらしい。目の前で、荷物を僕の頭にぶつけたことを老婦人が懸命に謝っていた。
席を2つも使って爆睡していた上に、席から頭がはみ出すほどのおかしな体勢で寝ていた僕が悪いので、どうぞお気になさらずに。という意味を含めて軽く会釈をしたが、もちろん伝わらず、その後も一生懸命謝ってくれていたのが申し訳なかった。トルコに入ってからあまり英語が通じない。感謝や謝罪、怒りなど自分の感情を表わすべき場面でそれが出来ないというのが一番もどかしい。
ふと時計に目をやるともう朝の6時である。結局イミグレーションの機械が朝まで直らず、僕らを乗せたバスは、トルコでもブルガリアでもないこの空間に取り残されたまま夜を明かしたらしい。
乗客が荷物を持ってせわしなくバスを降りるのを見て、入国手続きが再開されたことを理解し、僕もそれに続いた。
入国手続きを済ませ、再びバスに乗って、次に目を覚ました時は既にブルガリアの首都、ソフィアに到着していた。
イスラエル出国の際の徹夜がまだ尾を引いているのか、バスを降りてからも一向に目が覚めず、ほとんどソフィアの街の景色に目をやらぬまま、何かに取りつかれたかのようにただただ宿だけを目指して移動した。
宿に着くまでの間で唯一僕が足を止めたのは、地下鉄の駅で見たクラリネットの路上演奏だ。初老の男性が奏でるその音楽は、僕が勝手に想像していたブルガリア音楽そのものだった。明日のソフィア散策の脳内BGMにしようと、わざわざ近くのマクドナルドでコーヒーを頼み、眠たいのも忘れて小一時間その演奏に聞き入った。
演奏が終わったのを見て、彼の足もとの袋に他の人に習って1レバ放り込み、その場を後にする。
歩き始めるとまた激しい睡魔に襲われた。早く宿に到着して一刻も早くベッドに倒れ込みたいのと、眠気による充血とで、文字通り血眼で宿を探していた。
血眼の僕は普段よりも神経が研ぎ澄まされていて、ソフィア中心部の網目のように広がる道路網をいともたやすく攻略して目的の宿にたどり着いた。そしてやっとベッドに倒れ込むことが出来た。
旅の疲労、というか海外で暮らすことによる疲労というものはどんどん蓄積されていくものなのだろうか。僕の場合はどんどん蓄積されている気がする。もちろん肉体的な疲れとかだるさとかは食べて寝れば回復するし、精神的な疲労もなにか心が満たされる出来事に遭遇すれば回復するけれど、どうしても抜け落ちない異国ストレスみたいなものがどんどん溜まっている。でも旅人の中にはそういうものを一切感じない人もいるみたいで。そういうタイプの人が長期の海外生活などに向いている人なのだろうか。だとしたら僕は、長期間日本を離れることはできないけれど定期的に海外で暮らしたい、というかなりわがままなタイプだ。
昼間泥のように眠ったせいで夜は逆に目が冴えてしまって遅くまで寝られず、同じく遅くまで起きていたブルガリア人の男性と晩酌をした。
彼とは初め、音楽の趣味が合ったのでその内容で盛り上がっていたのだが、彼が数年前まで軍隊に所属していたということを知り、途中から専ら軍や兵器に関する話題になった。
ブルガリアの武器はロシア製のものが多いらしく、彼曰くロシアの兵器はアメリカのものよりも優れているそう。世界一大きい戦闘機も潜水艦も戦車もロシア製らしい。
話をしながら部屋の窓から外を眺めていると、「sex shop」と書かれた店から男性と派手な格好の女性が出て来てそのまま夜の闇に消えて行った。その光景がなぜか妙に東欧らしく思えて、このイメージ通りの殺伐とした東欧諸国の世界観に、不思議と気分が高揚した。
~この日撮った写真(少ない。。)~