11月20日 イスタンブール
この2日間ほとんど寝ていなかったせいか、この日の睡眠時間は軽く12時間を超えた。
出発の支度やブログの更新、ブルガリア行きのバスチケットの購入などで、いつものようにあっという間に日が暮れる。
イスタンブールの居心地は本当に良くて、一週間くらいいてもよかったのだが、昨日ガラタ塔でアジアとヨーロッパの分かれ目を見てから俄然旅の気力が上がっていた僕は、憧れの地ヨーロッパへの好奇心を抑えることができなくなっていた。
個人的にはこの旅で一番好みの味だったトルコ料理を目いっぱい胃袋に詰め込んで、ブルガリアの首都ソフィア行の夜行バスに乗り込んだ。
出発してしばらくの間、バスは海沿いの高速道路を走っていて、窓からイスタンブールの夜景が見渡せた。エルサレムと同じようにこの街も街灯には白熱電球を使っていて、夜の世界を絶妙にライトアップしている。白熱電球というのは魅力的な街の共通項なのだろうか。
夜の移動は宿一泊分のお金を節約できる代わりに、ネットもできず、街灯がなくなれば移りゆく景色を楽しむこともできないので、決まって手持無沙汰になる。特にバスは激しい揺れのせいで日記も満足に書けないので、することといえば寝るか、音楽を聞くか、ぼーっと物思いにふけることくらいだ。
旅をする中で、何かを見たり聞いたりして、反射的に考えを巡らせる習慣ならついていたが、なにもない車内で無理矢理何かやり考えるとなると、その内容は情けないくらいに子供じみたものになる。
今回のバスでは、よく新幹線や飛行機などの座席に着いている食事用のテーブルが、前の座席の人が椅子を倒した時に、どうやってあの水平状態を維持しているのかということを延々と考えていた。というより思い出していた。
あのテーブルがまだ確実には水平状態を保てない時(そういう時期があったとして)に飛行機や新幹線に乗った人たちの被害は相当なものだっただろう。機嫌良く食事をしていたらいきなりテーブルの傾斜が30度くらいになって食べ物やら飲み物が全て自分の膝の上にぶちまけられるのである。ドッキリもいいところだ。
きっと彼らが航空会社にクレームをつけなければ、今でも僕たちはいつ目の前のテーブルが傾斜30度になるのかとびくびくしながら食事をしなければいけなかったのかもしれない。そう考えるとクレーマーと呼ばれる人たちは意外と世の中を良くするのかもな、というそれっぽい結論に無理やりこじつけて、考えることにも飽きて後はずっと音楽を聞いていた。
あのテーブルがどうやって水平状態を保っているのかは結局思い出せずじまいだった。
トルコの出国ゲートに到着し、吹きつける寒風に凍えながらパスポートを持って乗客全員でイミグレーションへと向かう。
今回の出国手続きはおそらく今までで最もゆるい部類に入ると思う。
ここのイミグレーションで出国スタンプを押す役員の主な仕事は、スタンプを押し終えて近くでタバコを吸う人々との談笑なのだろう。そして片手間にスタンプを押したり、気が向いた時だけ、まるで旅行から帰って来た友人に感想を聞くかのような口調で滞在理由を尋ねる、といった具合である。
僕の時も、なんでイスタンブールに行ったの、と笑顔で聞いてきたので、アジアとヨーロッパの分かれ目を見るため、と答えると、彼が何かトルコ語でジョークを言って周りの人たちを笑わせていた。からかわれていたのかもしれないけれど、僕はその光景がなんだかとても平和なものに感じて、全ての国境でこんな出国ができる日が来ればいいのにな、と思った。
そういうわけで出国ゲートはものの数十分で乗客全員が通過した。
しかしその後、ブルガリアの入国ゲートで面倒なことが起こる。イミグレーションの機械が故障して入国手続きの再開のめどが立たないというのだ。
トルコとブルガリアの国境のど真ん中にポツン佇むバスの中で機械の復旧を待つことになってしまった。
~この日撮った写真~
バスターミナル内のゲームセンター。 |
バスはお菓子にコーヒーにテレビ付きだったけど、トルコ語の番組ばかりだった。 |
トルコとブルガリアの国境 |
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