ヨルダンからイスラエルに入国するためにキングフセイン橋という国境を通る人が多く、そこに行くためにはタクシーをチャーターするのが一番安くて良いらしい。
ルアイさんのおかげで相場よりも少し安めの値段で、タクシーをチャーターし、宿で知り合った3人と他の宿の人合わせて4人で宿から国境へと向かう。
アンマンのダウンタウンをしばらく走ると、一つ小高い丘を越えたあたりに高層ビルが立ち並ぶ現代的な街並みに入った。どうやらこっちは新市街らしく、アンマンのビジネス街のようだ。新市街の存在を知らなかった僕は今すぐタクシーを飛び降りて半時間だけでも歩き回りたい衝動にかられた。
そんな衝動にはお構いなしでタクシーは早々と新市街を通り抜け、また土色の景色に変わる。今まで見ていたいかにもアラブと言う感じのゴツゴツの岩山はなくなって、丸味を帯びた土の山が広がっていて、いよいよイスラエルが間近に近付いていることを実感した。
ヨルダン側のイミグレーションで出国を済ませ、イスラエル側へ向かうバスに乗り込む。ヨルダン側のイミグレーションはなんともゆるい感じで、これから始まる世界一厳しいと言われるイスラエル入国を上手く引き立てていた。
キングフセイン橋を渡り、イスラエル側のイミグレーションに到着する。バスの中から何人かがカメラで撮影していると、警備員にバスを止められて撮った写真を消去させられていた。噂にたがわぬ徹底ぶりに安心感すら覚える。
その安心感が恐怖感に変わったのは、イミグレーションの入口で、殺人犯のような目つきで片手でだらんと銃を持つ兵士の隣に立った時だった。銃と言うのは遠目に見ている分にはあまり怖くはないが、半径1m以内に入り、大半の日本人にとっては新聞やテレビの向こうのものでしかない殺人兵器の鮮明でリアルな姿が確認できた途端、全身がゾクっとする。ここで妙な動きをすると打たれるのだろうか。しかも「妙な動き」の基準もこの目つきの悪い兵士にゆだねられているわけで。これを頭に突き付けられる人の恐怖といったらそれだけでショック死するレベルだろう。
無事何事もなく入口の中に入れられ、いよいよ入国審査が始まった。
結論から言うと、噂に聞いていた厳しさとは程遠いものだった。
イスラエルに来た理由だけではなく、大学では何を専攻しているか、とか、イスラエルに友人はいるのかとか、さまざまなことを聞かれると聞いていたけど、他の国と変わらず入国理由を聞かれただけだった。
4人の内の一人はUAEに入国したことがあったためいろいろ質問されていたけど、それでも1時間もかからずに入国手続きを終えられた。
インターネットや情報ノート、ガイドブックでの情報の偏りをたまに感じるけど、今回もその一つだろう。みんな何か極端なことが起こった時しかブログや情報ノートに特筆しないから、実際に行ってみて、拍子抜けすることがよくある。極端な評価を広められた方はいい迷惑だ。
ただ今回のこと一つとっても、ネット上にたくさんの情報があふれる今でもそれらの情報と現実とはかなりの隔たり感じる。自分の足で旅をする価値はまだまだなくならない。
イミグレーションからバスに乗って最初の目的地エルサレムに向かう。巡礼に訪れていると思われる修道女とムスリムの女性が同じバス乗っていて、3つの宗教が混在する国イスラエルに入ったことを実感させた。さっきの丸みを帯びた土の山を30分程走ると、意外なほど早くエルサレムが見えてきた。街には近未来的なデザインの路面電車(ちんちん電車とは口が裂けても言えないようなかっこいいデザイン)が走っていて、道も綺麗でさながらヨーロッパのような街並みだ。
バスを乗り換えて、エルサレム旧市街の郊外にあるオリーブ山へ向かう。ここにはイブラヒムおじいさんという人が家主を務める家があり、多くの旅行者が訪れる。宿ではなく、宿泊者の寄付で運営されている無料の宿泊施設で、この家にあるものは全て無料で使えるし、料理も毎日毎食出て、冷蔵庫にある食材も自由に調理して食べられる。物価が場所によっては日本よりも高いイスラエルではバックパッカーにとって金銭的なオアシスだ。
そしてなによりもイブラヒムさんの人柄がこの家に旅行者をひきつける。
バスがその家に到着し、階段を上って扉を開ける。するとそこにはイブラヒムさんがいて、僕らと目が合うなり「ウェルカム!!イート!!」といって僕らを座らせ、ポカンとしている僕らの前に大量のごちそうを出してくれた。わけも分からずとりあえず食べている最中にもどんどん料理を運んでくれて、僕がお代わりしてもいいか聞くと、「ドントアスク!!イッツマイホーム!!イート!!」と言ってさっきの2倍くらいの量の料理を出してくれた。
食べ終わってすぐにエルサレムの旧市街へ観光に出かけた。
旧市街は大きな城壁のようなもので囲まれ、周りにいくつかの大きな門があってそこから入ることができる。旧市街ではほぼすべての建物が石で作られている。千年以上も前の街並みがほぼそのまま残されていて、童話に出てくるような王国の城下町を歩いているような感覚になる。この日は夕方から夜にかけて旧市街を歩いていたが、それぞれの時間帯で素晴らしい光景を見ることができた。夕方は、街が夕日に照らされ黄色く輝き、その輝きと家々の前に置いてある花壇の花との相性が抜群に良かった。夜は白熱電球でライトアップされた街並みが宗教都市としてのイメージにマッチしていてとても幻想的だ。白熱電球と夜の暗闇との相性は本当にいいと思う。日本に帰ったら家で使ってみたい。
この日はユダヤ教の聖地である嘆きの壁やイスラム教の聖地である岩のドーム。イエスが十字架を背負って死ぬ前に歩いた道ヴィアドロローサなど、超メジャーどころである3つの宗教の聖地を回った。
旧市街の中ではユダヤ人、アラブ人、アルメニア人がごっちゃに入り乱れ、街の至る所にあるキリスト教会のそばを目立つ格好(黒いハット黒いスーツにめちゃくちゃ長いもみあげ)のユダヤ人が歩き、そこにイスラム教のコーランが爆音で鳴り響く。思わず感嘆の声を漏らしてしまうほどの3宗教の混在っぷりは、共存を実現できた理想の状態というよりかは、どこか異様な雰囲気を醸し出していた。
宿でまた大量の料理を食べて、その日はすぐに寝た。
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