11月18日 エルサレム
~この日撮った写真~
この日はまた寝坊し、加えて出国前日恒例の雑事に追われた。
イブラヒムおじいさんの家からテルアビブ空港まで直通で行ってくれるタクシーを手配し、翌日のイスタンブールの宿を予約し、洗濯をして洗濯機を壊し、干す際に地面の上に全て落とし、また洗い直し、気がつけば夕方だった。
イブラヒムおじいさんの家の前には学校があって近くには公園もあるので、この辺りには子供がとても多く、家の前の通りは子供たちの遊び場になっている。この家に住み着いている猫に子供たちがちょっかいを出して遊ぶ様子を眺めていると、突然、雷が落ちたかのような爆音が鳴った。屋上に上がって山の麓を見渡してみると、遠くの方で黒煙が上がっている。何か小競り合いでもあったのだろうか。
イスラエルの人はこういうのには慣れているのか、黒煙が上がろうがミサイル警報が鳴ろうが、至って落ち着いている。その様子はどこか騒いでも何も変わらないことを悟っているかのようにも見えた。
この日もガザ地区ではイスラエル軍による空爆が行われていて、死者は52人に達した。Twitterのタイムラインに流れてくる、ガザ地区への空爆で殺された幼い子供たちの写真を見ていると、この問題に関する深い知識のない僕は単純だけどイスラエル政府が本当に許せなくなる。
でも、この一週間イスラエル人ともパレスチナ人とも、そしてその両方の子供たちとも本当に素晴らしい時間を過ごせた。その思い出のおかげで、どうにか公平に事実を見たいと思い直すことができる。
パレスチナ問題について、色々こうしたらいいんじゃないか、ここがだめなんじゃないかと考えを巡らせることは簡単だけど、今の僕に実際に行動できることは本当に悔しいくらいに限られている。
今回はその限られたできることの中から二つ、「この問題についてまずは知ること」と「両方の市民と触れ合い、他人事だという考えをなくすこと」が出来た。
実際にこうやってイスラエルから離れ(今はセルビア)twitterを見ながらブログを書いている今でも、タイムラインにガザの報道が流れてくると、イスラエルを旅する中で出会った人々のことが心配になる。
今はほとんどできることがないけれど、いつかそう遠くない将来にまだこの問題が解決されていなくて、そのとき僕にできることが今よりも増えているなら、迷わず行動したいと思う。そのためにも時々自分のブログを読み返したり、写真を見返したりして、この問題に対して今抱いている気持ちを忘れないようにしたい。
この日は余った時間のほとんどをイブラヒムおじいさんの家の屋上で過ごした。
屋上からはエルサレムの街並みが一望でき、夜になると街中にちりばめられた沢山の白熱電球が街を幻想的に映し出す。そして見上げると、エルサレムは空気がきれいなのか星がたくさん見える。夜にこの風景を1人で眺めながら仲良くなったボランティアの青年が入れてくれる変わった味の紅茶を飲むのがこの一週間の日課だった。
この家はオリーブ山の頂上にあるため屋上から見降ろすと山の中腹から麓にかけての多くの家の屋上が見えるのだけど、ほとんどの家が太陽光発電をしているのには驚いた。この電気は主に風呂のお湯を温めるのに使っているらしい。路面電車もそうだし、イスラエルで受ける様々なサービスはとても心地よく、人にも環境にも配慮できているイスラエルは先進国としてとても魅力的だ。イスラエルの良い面も悪い面も忘れないようにとずっとこの景色を眺めていた。
夜になって予約していたタクシーがイブラヒムおじさんの家に到着する。本当は空港までのタクシーをチャーターするのには300リラ(6000円)かかり、さらにタクシーが出発する場所に行くために別のタクシーを使わなければいけないのでさらに50リラ(1000円)ほどかかるのだけど、なんとタクシーの運転手がイブラヒムさんの息子だったので、無料でここまで迎えに来てくれたのだ。
昼にバスでテルアビブに行って少し観光してから空港に行っても良かったのだが(その方が安く済むし)、ガザからミサイルが大量に飛んできているテルアビブに長居する気にはなれず、夜に直接空港へ向かった。
ものの1時間弱で空港に到着し、ドライバー兼イブラヒムさんの息子の彼とも宿泊中には交流があったので、元気でな、と言いながら抱き合って別れた。周りから見ればタクシーの運転手と乗客が抱き合って別れるという不思議な光景だったと思うが。
テルアビブ空港は世界で一番安全な空港だと言われているそうだ。理由はもちろんこの空港のセキュリティチェックの徹底ぶりである。半分愚痴になってしまうと思うけど、その徹底ぶりをレポートしたい。
まずは荷物検査、の前に口頭質問がある。普通の空港ならここではパスポートの番号とチケットに記載されている番号との一致を確認するだけの単純作業のはずだが、テルアビブ空港は違う。まずイスラエルにいた理由やどこにいて何をしたかなど、根掘り葉掘り聞かれる。さらに誰かに爆弾を渡されていないか確認するための質問を受けるのだけど、担当の者が僕の英語に難があることを察知するや否や、日本語用の質問シートを渡してきて正確に答えさせられた。質問シートは日本語以外にもさまざまな言語に翻訳されていて、序盤からそのセキュリティレベルの高さに驚かされる。
次に荷物検査がある。普通の空港ならX線に通してもしなにか不審なものがあればそれを確認するという作業が行われるが、テルアビブ空港は違う。まず荷物をひっくり返される。言ってくれれば自分で開けるのにひっくり返される。そして衣服や電気製品などジャンル別に分けてある袋もお構いなしにすべて一緒にひっくり返される。そしてほとんど全てのものに薬品検査を行い、電子機器もケーブル類以外は全て爆弾の可能性ありと見なされ、別室に持って行かれ数十分ほど待たされる。
待っている間、財布に入れていた小銭もテーブルの上にばらまかれチェックされた。荷物検査が終わった後は検査係の人たちは早々に立ち去ってしまうので、一人でテーブルの上にばらまかれた小銭を財布に入れている時はなかなか惨めだった。
最後は身体検査。普通の空港なら荷物検査をやっている横でものの10秒で終わってしまう作業だが、もちろんテルアビブ空港は違う。別室に連れていかれて、服屋の試着室のような場所に入れられる。そして靴下、上着を脱がされ、身体検査が始まるのだが、これなら裸になった方がましだと言うくらい徹底的に体中を撫でまわされる。足元から尻、わき下などは特に時間をかけて撫でまわされ、仕上げに検査機であそこを何度かタッチされた。この検査はなかなか不快だった。検査している側もつらいと思うが。
全て終わった後は僕の担当(?)のような人がゲートがある場所まで優しく案内してくれた。
確かに不快ではあったけど、こんなに安心して飛行機に乗れたことはないし、経験と言う視点(この視点は無敵である)でははなかなかおもしろい体験が出来た。ただ、毎回これをやらなければ飛行機に乗れないイスラエル人の人たちには同情する。
ぼくのはもしかしたら極端な例なのかもしれないが、テルアビブ空港を利用する際は覚悟しておいた方がいい。あと本当に時間がかかるので普通よりも早めに空港に着いておいた方が方がいい。
ゲート前のカフェでコーヒーを飲んでから飛行機に乗った。フライトは5:20だったのでまだ周りは暗かったが、ほとんど人がいないカフェで夜の空港を見ながらコーヒーをすするというのはなかなか良い。
徹夜だったので、飛行機の中では爆睡してしまった。
これでアジア、中東の旅は終わり、起きればそこはヨーロッパの玄関口イスタンブールである。明日から、個人的には未知の世界であるヨーロッパの旅が始まる。
~この日撮った写真~
この家の猫。 |
イブラヒムおじいさんの家の前の通り |
テルアビブ空港電光掲示板。 |
これから体をまさぐられる人たち。 |
水筒を使わねば。 |
検査を全部終えるとそこはオアシス。 |
ぶれぶれだけどイスタンブールへ。 |
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